SAPIXが考える中学入試の時事問題対策
編集長 サピックス小学部社会科
岡本茂雄
時事問題学習の重要性について
この社会で起きていることを、子どもたちにも
「社会」という言葉の意味を知っていますか。「社会」とは、人々の集まりを示す言葉であり、人々の相互関係のことをも指します。みなさんの家族も小さな社会ですし、学校も町も、そして世界も一つの大きな社会なのです。私たちはこうした「社会」の中で暮らしています。つまり、社会科を学ぶということは、私たちがどのようなところで暮らしをしているのか、どのような関わりを持って暮らしているのか、どうしてそうなったのか、それらを考えることなのです。
中学入試問題を分析していると、ある傾向に気がつきます。それは「これからの時代を生きていく子どもたちに、この社会で起こっていることについて、自分自身の頭で考えてほしい」という、学校側の強いメッセージがこめられているということです。そのことを反映するかのように、近年「時事問題」に関する出題は定番になっています。時事問題と聞くと、とても取り組みにくいもののように思えるかもしれませんが、毎週の積み重ねによって少しずつできるようになっていきます。
毎日読む新聞から、ニュースを見る目を養う
■今週のチェック記事
「じじもんスクラム」では、毎日読まれている新聞の中から重要であると考えられる記事をピックアップしています。そして、内容を理解するうえで注目してほしいポイントを紹介していますので、今起きている出来事について、考える手がかりを持ちながら理解を進められるようになっています。
まずは、「ひと言ポイント」に注意しながら記事を読んでみてください。難しい内容が含まれているものもあると思います。少しでも疑問点が出てきたら、それについてご家族と話し合ってみましよう。ていねいな読解と多くの会話・討論の経験を積み重ねていくうちに、少しずつ社会の仕組みや変化が理解できるようになってくるでしょう。
■復習問題
今週のチェック記事や、それに関連する内容についての「復習問題」を作成しますので、サイトで紹介された内容をどれだけ理解しているか、関連知識の幅をどこまで広げればよいかを確認してください。この問題に取り組むことで、中学入試で求められる学力がより確かなものとなりますし、社会科の学習をサポートするという点においても効果的です。
分析・傾向
2025年度の中学入試においては
多くの学校において、社会で起きた出来事を題材とした出題がなされ、普段から時事問題の対策をしていたかどうかが得点の差につながったものと予想されます。
今年度の入試でも国内・国外で話題となったニュースが多く取り上げられ、衆議院選挙やアメリカ大統領選挙といった政治的トピック、過疎地域の鉄道路線廃止や海外半導体企業の日本進出、円安ドル高といった経済的トピック、能登半島で発生した地震や豪雨などの災害関連から観光公害に対する抑制策まで、幅広い分野から出題されました。
こうした時事問題に対応していくためには、知識を単に覚えるだけの学習ではなく、社会で起きている出来事に積極的に向き合うこと、そして、自分の言葉で説明できるようにし、物事を主体的に考えられるようにすることが大切です。
ニュースで扱われた内容を、社会科の学習として認識し、普段から自分の言葉で説明したり、家族や友達と話し合ったりすることを心がけましょう。
なかでも、特に現在の日本が向き合わなくてはならない財政や社会保障の問題、産業政策やエネルギー政策といった、多面的な視点をもとに解決していくことが求められる課題については、いろいろな意見に触れたうえで、自分なりの考えを持てるようにすることを意識したいところです。
あなたなら、どのように解決しますか?
2025年度入試出題事例 [1]
青山学院横浜英和中学校 社会 A日程 2025年2月1日実施
福祉避難所はバリアフリーであることなどいくつかの条件があり、地域の高齢者施設など福祉施設が避難所として指定されることもあります。
⑤1995年の阪神・淡路大震災後にその必要性が報告されました。しかし、30年近くたった2024年1月、能登半島地震の被災地である奥能登では、発災から1か月後の2月時点でも指定施設数の4割以下しか開設できなかったといいます。実際の開設数が少なくなってしまっている理由として、⑥「福祉避難所」の開設・運営を実際に行う人たちも地域の被災者であるという現状があります。
問6 下線部⑥について、小学6年生のあなたとあなたの家族が被災地域に住んでおり、あなたの家族が福祉避難所で働く立場であるとします。被災後できるだけ早く福祉避難所で働けるようにするためには、どのような仕組みやサポートがあればいいと思いますか。あなたの考えを具体的に答えなさい。
※福祉避難所とは、「介助や介護などの支援が必要な乳幼児、高齢者、障がいがある人などを対象として開設される」避難所を指します。
(以上、[3]問6より抜粋)
解説
災害への備えは常日頃訴えられていますが、私たちは災害発生後の生活の維持についても考えておかねばなりません。避難所を開設・運営する人や復興を担う人も被災の当事者である中で、受け身の姿勢では日常を取り戻すことは難しいでしょう。
『今週のチェック記事』では能登半島地震や東日本大震災を取り上げ、避難生活が長期間に及ぶ原因や、その際にどのようなことが課題として生じているのかについて、当事者意識を持って考えるように促しました。何か一つの出来事に対して、自分が当事者となったときにどのように行動するかを考える習慣は、昨今の入試問題を解いていくうえでも非常に大切です。
予想通り...オーバーツーリズム
2025年度入試出題事例 [2]
成城学園中学校 社会 第2回 2025年2月3日実施
問8 下線部⑥について、山梨県では2024年から富士山の5合目の登山道にゲートを設置し、下の①~③の「制限」を始めた。この制限が行われた背景の1つに、弾丸登山を防止するためということがあるが、なぜ昨年から制限が始まったのか、その背景には別にどのようなことがあるか説明しなさい。
①1日の登山者数の上限を4000人までとする。
②1人あたり2000円の通行料を取る。
③午後4時から翌日午前3時までの間、登山道を閉鎖する。(以上、[1]問8より抜粋)
東京農業大学第一高等学校中等部 社会 第4回 2025年2月4日実施
問8 下線部⑧について、実際にオーバーツーリズムによって「観光客」「地域住民」に生じる状況を、その原因も含めてそれぞれ具体的に説明しなさい。
(以上、[3]問8より抜粋)
解説
一般的には観光客が増えることでモノ(商品)やコト(体験)の消費が増え、地域経済が活性化すると考えられます。一方、インバウンド(外国人観光客)の著しい増加によって地域住民や環境に悪影響を与える観光公害(オーバーツーリズム)が深刻な問題となっています。これについて、一度でも主体的に考えたことのある受験生は容易に解答ができたでしよう。
『今週のチェック記事』2024年5月9日号では観光公害の問題点と対策について考えてもらっています。また、5月23日号では富士山の登山規制の経済効果と環境の保全のバランスについて、さらに7月25日号・2025年1月9日号では宿泊税の導入による観光公害の対策について紹介しています。同じテーマについて様々な観点からとらえていくことは、社会を学習するうえでは非常に重要です。
身近なことへの関心...
2025年度入試 出題事例 [3]
日本女子大学附属中学校 社会 第1回 2025年2月1日実施
問4(3)新潟県で多く栽培される「コシヒカリ」は品種改良で生まれました。あなたは、これから先の品種改良でどのような特徴を持つ米が生み出されるとよいと考えますか、その理由(その品種が解決に役立つと考える課題)とともに答えなさい。
(以上、[4]問4から抜粋)
解説
2024年は全国的に出回る米が不足する「令和の米騒動」が発生しました。不足した理由として、南海トラフ地震臨時情報が出されたことにともなう米の買い占め、インバウンドのコメ消費の増加などが挙げられていますが、2023年の猛暑により出荷できる品質の米が十分に収穫できなかったからともいわれています。
『今週のチェック記事』2024年8月29日号では暑さに強い品種の開発や作付けが進んでいることを紹介しています。記事を読んだことのある受験生は皆解答できたのではないかと思います。私たちの身近なコメがニュースになれば、当然出題されやすくなります。
2026年度は...
2026年度の中学入試においても、社会で起きた出来事に対する深い理解を求めるような出題傾向は変わらないと考えられます。国内の政治・経済などのほか、日本と世界の国々との関わりにも注意が必要です。この「じじもんスクラム」を活用し、時事問題そのものだけでなく、その出来事と関わりの深い事柄についても確認しながら学習を進めてください。そして、社会で起きた出来事を特定の視点からだけでなく、複眼的に考え、いろいろと調べながら、自分なりの意見というものを構築していきましょう。